




まずは動き出さなくては…
一歩踏み出した「本」のアイデア
コロナウイルスの影響を大きく受けた観光業界。
日本最古の温泉といわれる道後温泉も例外ではありませんでした。
賑わっていた道後から、温泉を楽しむお客様が消えてしまったのです。
あたたかい宿「谷屋」の竹林さんは、
「なんとか、お客様に来ていただけないか・・・」と考えていいました。
考えあぐねるうちに、ふと頭に思い浮かんだのが
松山市の観光キャチフレーズ「いで湯と城と文学の町松山」でした。
松山といえば、俳人 正岡子規の出身地であり、
夏目漱石の小説「坊っちゃん」の舞台でもあります。
たくさんの文学に関する観光資源がある松山ですが、
「文学というよりはもう少し分かりやすく『本』という切り口で、
観光に落とし込むことができないか」と竹林さんは考えました。
そこから「お宿の図書館」のアイデアが少しずつ形になっていったのです。






仲間が増えるたびにアイデアがカタチになる
既に多くの宿が設置しているライブラリーコーナー。
「宿にある本棚のスペースをうまく活用することで
お客様に楽しんでいただく企画になるのではないか?」と、
まず、竹林さんが相談したのが、道後温泉旅館協同組合青年部長で
道後プリンスホテル副社長の佐渡さんでした。
実は佐渡さんも、この状況をなんとか打破できないかと、知り合いのコンサルティング会社の方に相談し、水面下で動いているところでした。
しかし、なかなか「これ!」というアイデアが思いつかない・・・。
そんな矢先に竹林さんから連絡が入り、このアイデアに賛同することにしたのです。
その後、大和屋本店の奥村常務も加わり、竹林さんの「本」というアイデアが、
道後温泉旅館協同組合(以下「旅館組合」)で取り組む「お宿の図書館」プロジェクトとして大きく変化していきました。






課題は一つひとつクリアして、
さらに面白いプロジェクトとして
成長していく
道後温泉組合全体の議題にあげると、アイデア自体は悪くないものの、
コロナ禍でパブリックスペースに人が集まること、
複数の人が直接本に触れるのはいかがなものかという意見も。
そこで、全てのブックギャラリースペースに抗菌コートを施工することに。
そして、ただ本を置いているだけではなく、道後温泉組合で取り組むなら、
それぞれがテーマを決めて、それに沿った本を置いておくと
面白いのではないかということになりました。
『本』というはじめのアイデアが、たくさんの意見に触れることで
アップデートしていき、プロジェクト自体が洗練されていきます。






全体で取り組むから
各宿の特徴が浮き彫りになる
例えば、ヨーロピアン調が楽しめる
「オールドイングランド 道後山の手ホテル」では、ヨーロッパ系の本を、
現代建築の巨匠 黒川紀章氏が建築設計した「道後舘」は建築関係の本を、
さらにファミリー層に人気の「道後プリンスホテル」は、
もともと漫画コーナーとして5000冊の漫画を取り揃えていたものの、
今回の企画でさらに小さなお子さんに向けて折り紙絵本を用意することにしました。それぞれの宿の特徴が出る本を準備することで、
「本」という共通のキーワードから、
宿ごとにオリジナリティーを出すことにしたのです。





点と点が線になり、
その線がさらに大きな絵を描いていく
「すでにライブラリースペースを併設していた宿も多く、
もちろん、お宿の図書館で集客できるような甘いものではないことは
わかっています」と竹林さん。
「ただ、道後の強さは、地域全体の繋がりが深いこと。
宿同士の繋がりはもちろん、商店街や飲食店など、道後の地区全体で
お客様に来てもらおうという想いがあり、
みんなで地域を盛り上げたいという気持ちが強い。
道後という場所に魅力を持たせることが大事なのです」と佐渡さん。
「お宿の図書館」も、それぞれの宿がおこなっていたサービスを
道後温泉組合全体で行うことが大切だという考えから生まれました。
それはまさに、点と点が繋がることで点が線になり、
その線がさらにまだ見ぬ絵を描くかのように・・・。
